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ロシア語の身上調書
(60数万の日本軍戦時捕虜各人別)

これから、数回にわたり、ソ連政府から我が国の政府・厚生労働省宛に送ってきた第2次大戦後、ソ連に抑留された60数万の日本軍戦時捕虜の、各人別抑留中の身上調査書が送られてきたことについてのご連絡をいたします。

10月の下旬か、11月の上旬頃、役所(北九州市か政府)からの連絡があり、「在ソ中の各人別身上調査書が、ソ連政府から送られてきたので、旧ソ連被抑留者のうち希望者は、身元を証明する書類を付けて、政府宛請求しなさい」というものでした。

私は真っ先にその身上調査書を政府宛請求いたしましたところ、その「私の身上調査書」が、去る11月15日に、「親展便」で送られて参りました。

ロシア政府から政府宛送られてきた身上書原本はすべてがロシア語記載。これにも露語で「極秘」と記載されていました。我が国厚生労働省から添付されたその原本は、調査事項各項目のみが和訳されています。これにも「極秘」の印が押されてあります。

60数万の抑留者中、私が最も若い20歳でしたが、当時、25〜26、30〜35、40〜45あたりの方が大部をしめていました。今は亡き元日水社長大口駿一氏、今度の選挙で残念にも落選された元鳥取2区選出相沢英之氏などは多分東大同期ごろの卒業だったでしょう、当時同じラーゲリ(収容所)にいて、25〜6歳でした。

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その後、各新聞社、各大学等との話し合いが私との間にありました。そして結局北九州在住のあるロシア人に連絡を取り、何とかして和訳に協力願えないか、お願いし今、そのご返事をお待ちしているところです。

いずれにしても、この問題は各個人のプラバシーに進入することで、特に、私個人の身上書を開いてみますと、在ソ中の「賞罰」欄があります。「誉められた記事」は良いとしても、「罰せられた記事」は、今更人目にさらされたくない、ということもありましょう。

私も、あれから55年も経って、かなり露語を忘れました。当時と違って、今、私の手元には露和も和露辞典もありますから、かなりの部分は訳せると思いますが、なにさまソ連政府から送られてきた原本のうち、各項目の個人別の箇所が筆記体になっていて、判読に苦しいところがあります。

前記ロシア人も、その筆記体の判読に首をひねることもありました。

この問題は、日本全国の元「ソ連被抑留者すべて」にわたる、きわめて重要な問題であります。

私もかなり忘れましたが、おそらく大部分の該当者は、折角の「自分の身上書」をいただいても、ほとんど、解読出来ない人が多いと思います。

同じ苦労、それも筆舌に尽くしがたいような労苦を共有したことのあるこの私が、最後のご奉公、翻訳希望者にボランティア「無償」で、判るところを翻訳したいと考えています。
                               11月23日
   41項目の項目明細

ソ連から送られてきた各人別の身上調査書は、すべて露語で記載されています。その項目は、各人の「1.姓」から始まり、「41番の捕虜のサイン及び調査票記入日」まであります。

厚生労働省は、原本をそのままコピーし、各項目のみに日本語の訳をつけていて、その原本と、各項目訳付きの2部を送ってきました。

調査票:1.姓 2.名前 3.父称 4.出生年 5.出生地 6.召集前の住所7.民族(田部註・ロシアは多民族国家です) 8.母国語 9.他の習得語 10.国籍 11.党籍 12.信仰(宗教) 13.教育a)一般 b)専門 c)軍事 14.入隊前の職業及び専門  15.勤続期間 16.どこの敵軍にいたか(田部註・なるほどロシア・旧ソ連から見れば我々は「敵軍」に違いない)17.動員令による入隊か、希望入隊か(召集・赤紙による入隊か、それとも志願兵か。私田部春雄は志願兵) 18.召集(入隊)時期 19.兵種(田部は航空兵) 20.捕虜になる前の所属 21.名簿番号 22.階級又は称号 23.部隊での役職

24.褒賞 25.捕虜にされたのか、自発的に投降したのか(田部註・我が国の旧軍法によれば、自発的投降は極刑に処せられる、という厳しいものでした)
26.捕虜になった時期 27.捕虜になった場所 28.家族状況(未婚・既婚)29.妻、子供の姓名、年齢、職業、住所 30.父母の姓名、年齢、職業、住所31.兄弟、姉妹の姓名、年齢、職業、住所 32.父親の階級的身分 33.父親の社会的身分 34.父親の資産状況

35)捕虜の社会的・資産的状況 
36)ソ連に居住したことがあるか・場所、時期、職業。 37)ソ連に居住している親族・姓名、年齢、勤務地、職業、住所。
38)裁判や取り調べを受けた経験・いつ、どこで、誰に、何が理由で受けたのか、服役場所。
39)外国にいった経験・期間、何に従事していたか
40)召集前の具体的活動に関して詳細に列挙せよ。
41)捕虜のサイン及び調査票記入日
                            

(田部註・41番が質問の最終項目です。将来いつか我が国がどこかと、不幸にして戦争し、運良く戦死せずに、敵方の捕虜になって、無事に帰国できたら、後で、このような質問状が相手の国・政府から送られてくるかもしれません。)

この後、番号は打ってありませんが、なかなかおもしろい補足項目があります。

調査書の最終番号・41番の後に次のような補足項目がある。人物描写・身長、体格、髪の色、目の色、鼻、顔特徴
調査票記入職員の役職名、称号、姓、移動に関する記録。

以上で、すべての調査項目が終わっている。
その中で、おもしろいのが「鼻」のところである。
ここで、私・田部春雄についてなんと書いてあるでしょうか。
прямойと筆記体で書かれています。
露和辞典・研究社露和辞典をひきますと、「まっすぐな、、直線の」という訳が付いています。その訳の2行下に、прямой нос 「まっすぐな鼻」と言う例語が載せられています。

数日前、幸いにも日本語をよく勉強しているロシアのご婦人に会いましたから、さっそく私個人のこの項目を見せ、「まっすぐな鼻」とはいったいどういう意味ですか、と質問しました。

彼女の日本語の説明は、ちょっと言いよどんだようなところがあり、「まっすぐな鼻ですよ」という説明でした。
私の家内も横に腰掛けて、このロシア人の説明を聞いていましたが、判ったような顔つきではありませんでした。
思うに、世界中にはいろいろな民族がいて、あまり詳しく人の鼻のことについて話し合うのは、時として「個人のプライバシー・人権の侵害」になるやもしれず、多民族国においては、細心の注意を払う必要があるのだろう、と私はそのとき考えたことでした。

要するに、くだけた日本語でいえば、「はなすじが、とおっている」ということかな、と私は胸の中で自分流に訳したことでした。

                2003年11月28日 田部春雄

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